近年は少子高齢化に伴う医療費の増加や新型コロナウイルスの影響などもあり、幅広い年代で「健康」について考える人が増えています。
そんな健康の分野において近年特に注目されているのが「ウェルネス」です。
ウェルネスはヘルスケア(健康)とどのような違いがあり、管理栄養士はどのようにかかわっていくべきなのでしょうか?
今回はウェルネスの特徴や食事との関連性、さらに管理栄養士がウェルネスを考える上で重要なことを解説していきます。
管理栄養士としてウェルネス分野にも携わっていきたいと考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
ウェルネスとは?
そもそもウェルネスとはどういったものか理解しておくことが大切です。
ウェルネスとは、健康をより広義的かつ総合的に捉えた概念を指します。
1961年にハルバート・ダン博士によって最初の定義(輝くように生き生きとしていること)が提唱されました。
ヘルスケア(健康)との違い
ヘルスケアは、世界的な定義として「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」と定めています。
健康は社会的な部分も含まれているため、単純に病気やケガ、不調ではないことを指しているわけではありません。
ウェルネスの場合、この定義よりもさらに視野を広く捉え、あらゆる解釈がなされている言葉になります。
例えばあるシンクタンクでは、ウェルネスに対して「全人的健康状態をもたらす活動や選択、生活のスタイルを積極的に追求すること」と定義しました。
一方で、医学サービスを提供する企業では「健康で充実した生活を送るために、身体的・精神的・社会的・感情的・環境的・知的・職業的にバランスが取れていること」と示しています。
このように、ウェルネスはそれぞれの団体・個人によって幅広く定義付けられているのです。
そのため、ウェルネスとヘルスケアを区別することは簡単なことではないものの、単純に区別するのであれば、ウェルネスは健康になるための生活習慣を積極的に送っている状態だと言えるでしょう。
ウェルビーイングとは?
ウェルネスと同様に近年よく聞く言葉として「ウェルビーイング」があります。
ウェルビーイングとは、「Well(良い)」と「Being(状態)」を組み合わせた造語です。
WHO(世界保健機関)はウェルビーイングについて、「個人・社会の良い状態、健康と同様に生活における1つの要素であり、社会的・経済的・環境的な状況によって決まる」としています。
ウェルビーイングは主観的と客観的の2種類が存在し、主観的ウェルビーイングは個人一人ひとりが感じている認識や感覚で見えてくること、客観的ウェルビーイングは統計などの客観的数字で測れる指標を指します。
例えば、客観的数字で見ればウェルビーイングの充実度が高かったとしても、主観的な指標で見るとそうではない場合もあるでしょう。
主観的は個人によって基準が異なるものです。
多くの業界がウェルネスを取り入れている
ヘルスケアに比べて広範な概念になるウェルネスは、医療業界に留まらずあらゆる業界でも既に取り入れられています。
ウェルネス産業には、主にウェルネスツーリズム、ウェルネスフード、フィットネス、美容業界などが含まれています。
ウェルネスツーリズムとは、森林浴やヘルシーな食事などを取り入れ、心と体の健康維持を目指した観光産業です。
ウェルネスと食事の深い関係性
食事は人間が生活していく中で欠かせない行動になりますが、それはあくまでも身体的なものと捉えている方は多いでしょう。
しかし、実際には広範な概念を持つウェルネスと食事は深い関係性があります。
まず、食事は精神的な部分にも大きく影響すると言われています。
メンタルヘルスと食事の関係に対する研究は、2000年以降から盛んに行われるようになりました。
例えばエネルギーを過剰に摂取し過ぎてしまうと肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病になるリスクが高まります。
肥満はうつ病を発症するリスクがあるとされており、うつ病発症のリスクを回避するためにも適切な栄養管理が重要とされているのです。
また、加工食品やパン、白米など精製された食品は食べやすいものの、ビタミン・ミネラルなどの栄養素が失われてしまうという欠点があります。
エネルギーは過剰になっているものの、ビタミン・ミネラルは不足している状態になり、体は栄養不足の状態となってしまうのです。
うつ病との関連が指摘されているビタミンの中でも特に不足しやすいと言われるのが、葉酸です。
葉酸は神経伝達物質の合成に影響する栄養素であり、うつ病の患者は葉酸が欠乏しているケースが多いこともわかっています。
また、神経伝達物質を正常に機能させる鉄分も、不足することでうつ病のリスクが高まってしまいます。
食品そのものではなく、食事の在り方もウェルネスに大きく関係していると考えられます。
近年問題視されている「孤食」は、家族がいないので一人で食事をとること、または家族はいるが一人で食事をとっていることを示す言葉です。
この孤食は栄養バランスが偏りやすいだけでなく、コミュニケーションの機会が失われることで社会性・協調性が損なわれやすいとされています。
食事は社会的なつながりを感じられる重要な役割を担っているため、ウェルネスを目指すためにも食事の在り方について考えていく必要があります。
管理栄養士がウェルネスを取り入れるためには
ウェルネスは栄養や食事と深い関わりがあることをご紹介しましたが、管理栄養士はどのようにウェルネスを考えていくことが必要なのでしょうか?
管理栄養士は基本的に食や栄養のプロフェショナルとして、多くの人に栄養バランスをとることの大切さや食事の楽しさについて教えていくことになります。
一方で、病気の方に対する栄養管理や指導を行うのも仕事の1つです。
この時、単に病気の治療を目的に栄養管理・指導を行ったとしても、食生活を簡単に改善することはできず、再び元の食事をしてしまう患者も多いでしょう。
患者にとって普通だった食事をいきなり変更するのは難しいものです。
Point
つまり、管理栄養士は単に身体的(病気を治療すること)だけではなく、様々な視点を持って食生活を改善に導いていくことがウェルネスにもつながっていきます。
管理栄養士は内面美容にも貢献できる
ウェルネス産業には美容も含まれていることをご紹介しましたが、特に内面美容は管理栄養士が深く関われる分野です。
体の内側から湧き出る美しさ・若々しさを実感することで、ウェルネスで定義された良好な状態を目指せるでしょう。
内面美容では人体について理解した上で、栄養素がどのように機能していくか、体の内側から綺麗を目指していくためにはどうすればいいかを学ぶことが大切です。
近年は美容業界でも内面美容の考え方が広まっているため、ウェルネスを取り入れた仕事をしてみたいと考えている方は、美容業界での活躍も検討してみましょう。
今回は、ウェルネスについてご紹介してきました。
ウェルネスは大まかな定義はあるものの、団体・個人によって若干その意味が変動することもあります。
しかし、身体的な健康だけでなく、広い観点で良好な状態を目指すことがウェルネスになることは変わりません。
管理栄養士は食や栄養のプロとして、ウェルネスにも深く関われる仕事と言えます。
ウェルネスは幅広い業界にも考え方や取り組みが広まっているため、管理栄養士が活躍できる分野は今後も広がっていくことが期待できます。